「明暗」 夏目漱石 岩波書店
大正6年 初版 百年古書
漱石の死によって未完に終わった最後の長編小説「明暗」。岩波書店から大正6年に単行本が刊行されました。
結婚後間もない夫婦の10日余りの出来事が精密に描かれた内容。漱石文学らしく人間の生臭いところが多く描かれていますが、一方で、これまで完結させてきたどの作品よりも長い作品であったこと(未完にも関わらず)や夫婦・兄妹・愛人・友人・親族・上司部下などありふれた人間関係を網の目のように配置し対象を相対的に把握する表現方法、それらがもたらす重層的な小説構造等、50歳に達した漱石が小説というものにおいて更なる挑戦をしかけていたことが感じられる作品。だからこそ未完であることが悔やまれます。
なお、本書の装丁は津田青楓によるもの。漱石本の装丁は『道草』と本書『明暗』および没後に刊行される縮刷版等を手掛けています。津田は画家であり詩、書、短歌も作った人物。漱石の晩年に門下生としてまた友人としての付き合いがあり、漱石に絵を教えたりしていました。