シカゴ・ハウスが世界へと爆発的に広がり始めた1988年。Trax Records傘下のPrecision Recordsからリリースされた「Bang Orchestra!」の『Rush』は、アシッド一辺倒ではない、シカゴ・ハウスのもう一つの魅力を伝える隠れた名作である。
Bang Orchestra!は、シカゴ・ハウスの重要人物「Victor Romeo(V. Lawrence)」が関わったプロジェクト。本作でも彼らしい洗練されたアレンジと、クラブ・ミュージックとしての実用性が高いレベルで両立している。
タイトル曲「Rush」は、力強い4つ打ちのリズムを軸に、浮遊感のあるシンセパッドとピアノ・リフ、ソウルフルなハウス・グルーヴが絶妙に溶け合う一曲。派手な展開に頼ることなく、繰り返しによってじわじわと高揚感を積み重ねていく構成は、まさに80年代シカゴ・ハウスらしい美学そのものだ。
「Medusa Mix」は空間的な広がりを強調したディープな仕上がりで、深夜帯のフロアにゆっくりと熱を与えていく。一方、「Metro Mix」はよりタイトなリズムワークを前面に押し出し、DJユースを意識した実戦的なミックスとなっている。
B面の「Transmitt」では雰囲気が一転。シンセシーケンスを主体にしたミニマルな構成と、エレクトロ由来の機械的な質感が前面に現れ、ハウスとテクノの境界線を感じさせる内容となっている。「Dub」ではさらに余計な要素を削ぎ落とし、エフェクト処理による空間演出が際立つ。後のディープハウスやミニマル・テクノへと繋がる感覚も垣間見える。
1988年という時代は、シカゴ・ハウスが世界中へ拡散する一方で、そのサウンドも急速に多様化していた。本作は、その過渡期ならではの自由な空気を記録した一枚であり、Trax周辺特有の荒々しさとVictor Romeoの洗練されたセンスが絶妙なバランスで共存している。
派手な知名度こそないものの、シカゴ・ハウスが持つグルーヴ、ディープネス、そして未来への可能性を凝縮した隠れたクラシック。オールドスクール・ハウスを掘り下げるなら、ぜひとも押さえておきたい一枚。

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