アントニ・ヴィト(指揮)/ワルシャワ・フィル、同合唱団
マグダレーナ・ドブロウォルスカ(ソプラノ)、エヴァ・マルシニク(アルト)
ラファウ・バルトミンスキー(テノール)

録音:2011年6月13-16日、ポーランド、ワルシャワ、ワルシャワ・フィル・ホール

NAXOS【香港輸入盤】

ミェチスワフ・ワインベルク(1919-1996)は、ポーランドのワルシャワに生まれたユダヤ系の作曲家・ピアニストです。第二次世界大戦の勃発によって故国を離れ、ソ連へ逃れた彼は、ミンスクやタシケントを経てモスクワに移住。自作の「交響曲第1番」を送ったことをきっかけにショスタコーヴィチに認められ、以後、親しい友人として交流を深めながら、作曲家としての活動を続けました。ショスタコーヴィチから強い影響を受けつつも、ユダヤの伝統音楽やポーランドの文化的背景を作品に取り込み、独自の音楽世界を築き上げました。ワインベルクは、交響曲26曲、弦楽四重奏曲17曲、7つのオペラをはじめ、膨大な作品を残しています。映画音楽も数多く手掛け、その中にはソ連映画の名作『鶴は翔んでゆく』の音楽も含まれています。しかし、生前は政治的・社会的な事情もあって作品が広く演奏される機会に恵まれず、長らくショスタコーヴィチの影に隠れた存在でした。近年になって欧米を中心に再評価が急速に進み、今では20世紀を代表する重要な作曲家のひとりとして、その豊かな創作活動に注目が集まっています。
ワインベルクは、NAXOSレーベルが精力的に録音をリリースしている作曲家のひとりです。なかでも交響曲の録音においては、ポーランドを代表する指揮者アントニ・ヴィトの存在が大きいことは間違いありません。本盤に収録された「交響曲第8番」は、1964年に作曲された大規模な管弦楽と声楽を必要とする作品で、ワインベルクの「極めて個人的な独白」が表出された、きわめて重要な交響曲です。ジュリアン・トゥヴィム(1894-1953)の叙事詩「ポーランドの花々」をテキストに用い、祖国ポーランドの過去と不確かな未来を見つめています。貧困や社会的不平等、戦争の空しさと残酷さなどが描かれ、そこには当時の社会情勢だけでなく、現代にも通じる不安や苦悩が刻み込まれています。全10楽章からなるこの作品は、詩の言葉を通して社会の矛盾や人間の悲劇を鋭く見据えながら、最後にはほのかな希望の光へと向かっていきます。暗い現実を見つめた末に差し込むその希望こそ、ワインベルクがこの作品に託した願いだったのかもしれません。
この作品の初演と世界初録音を担ったのが、アントニ・ヴィト指揮、ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団・合唱団です。ヴィトは1944年にポーランドのクラクフに生まれました。クラクフ音楽院で指揮をヘンリク・チジュに、作曲をクシシュトフ・ペンデレツキに師事し、さらにパリではナディア・ブーランジェに学びました。音楽だけでなく法律も修めたという異色の経歴を持ち、1971年にはヘルベルト・フォン・カラヤン国際指揮者コンクールで第2位に入賞。その後、ポーランド放送・テレビ交響楽団、ポーランド国立放送交響楽団、カナリア諸島のグラン・カナリア・フィルハーモニー管弦楽団などの要職を歴任しました。2002年から2013年まではワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団の総監督・芸術監督を務め、ポーランド音楽の普及と演奏水準の向上に大きく貢献しました。ヴィトは、シマノフスキ、ルトスワフスキ、ペンデレツキ、グレツキなど、ポーランドの作曲家の作品を積極的に取り上げてきたことで知られています。NAXOSを中心に200枚を超える録音を行い、グラミー賞にも複数回ノミネートされ、2013年にはペンデレツキ作品の録音でグラミー賞を受賞しました。ポーランド音楽への深い理解と、複雑なスコアを明晰に整理する手腕には定評があります。現在も客演指揮者として国際的に活動を続けており、本盤でもワルシャワ・フィルと合唱団を率いて、ワインベルクの音楽に込められた歴史的な記憶と個人的な苦悩を、力強く描き出しています。ワインベルクの音楽は、ショスタコーヴィチを思わせる鋭い緊張感を持ちながら、より内省的で、深い悲しみや人間への共感をたたえています。この「交響曲第8番」では、独唱者と合唱、オーケストラが一体となって、祖国の歴史と人々の苦難を壮大なスケールで描き出します。ワインベルクの音楽世界を深く知るうえで、ぜひ聴いておきたい重要な作品です。未開封新品です。