本盤は、マティアス・ピンチャーが音楽監督を務めたアンサンブル・アンテルコンタンポランとの協働を記録した2枚組で、独奏曲から協奏的作品、声楽曲、ライヴ・エレクトロニクスを伴う作品までを収録しています。
アルバム全体について
文:マティアス・ピンチャー
「ネメトン」とは、ケルト文化における聖なる場所、すなわち力や精神的エネルギーが集まる森の空き地などを指す言葉です。
ピンチャーはこれを、音が蓄積され、流れ出し、原初的な状態をあらわにする「音響空間」の比喩として捉えています。また、作曲の過程で未知の領域が突然開かれ、諸要素が自然にあるべき場所へ収まる瞬間も、想像上のネメトンに重ねています。
さらに、アンサンブル・アンテルコンタンポランとの長年の共同作業そのものを、自身にとっての「個人的で聖なるネメトン」と表現。本盤を、演奏家たちへの感謝と、聴き手が音の庭を歩きながら自分の内側に何かを発見するための招待として位置づけています。
主な収録作品
-
《ネメトン》―打楽器独奏のための
文:マティアス・ピンチャー
金属、木、皮を中心とする打楽器を用い、散在する音の点から空間が次第に密度とエネルギーを増し、内破へ向かう過程を描きます。音と音の間隔そのものが、蓄積される力の強さを形づくります。
-
《マレ》―ヴァイオリンとアンサンブルのための
文:マリー・ルイーゼ・マインツ
題名はヘブライ語で「顔」「しるし」「突然現れる幻影」などを意味します。ヴァイオリンが高音域を中心に細い線を途切れなく紡ぎ、アンサンブルが透明な音色の層で応答します。華やかな技巧を前面に出すのではなく、内省的な「同心円的ヴィルトゥオジティ」を追求した作品です。
-
《記された痕跡》
文:マティアス・ピンチャー
コントラバス、3台のチェロ、楽器群とライヴ・エレクトロニクスによる作品。提示された音や身振りが開かれた状態へ変形し、現れた記号が伝達の瞬間だけ存在して、再び消えてゆきます。歩行、非空間、残された痕跡が中心的なイメージです。
-
《ヌール》―ピアノとアンサンブルのための
解説:ケルスティン・シュスラー=バッハに基づく
「ヌール」はヘブライ語とアラビア語で「火」または「光」を意味します。金属的に輝くピアノと、低音木管を中心とする暗いアンサンブル空間が応答し合い、火花、炎、爆発、残り火のように音楽が変化します。静止して自らを聴くかのような瞬間と、激しい運動との対照も特徴です。
-
《彼方へ――過ぎゆくものの体系》
文:シュテファン・フリッケ
アンゼルム・キーファーの美術作品に触発されたフルート独奏曲。人間の呼吸と直接結びつくフルートを通して、瞬間と永遠、人間と人類を考察します。多様な特殊奏法による音が無から立ち上がり、途切れ、再び形を変えて現れます。
-
《歌と雪景色》
文:アクセル・バウニ
E・E・カミングズの詩によるソプラノとピアノの連作。鳥の声、沈黙、プリペアド・ピアノの響き、繊細な歌声が、冬の風景のような静かな空間を形成します。歌は沈黙から生まれ、沈黙を満たし、再びそこへ戻ってゆきます。
-
《音響の日食》
文:マリー・ルイーゼ・マインツ
トランペットを中心とする《天体Ⅰ》、ホルンを中心とする《天体Ⅱ》、両者を重ね合わせる《掩蔽》から成る三部作。異質な二つの音響世界が接近し、互いを覆い、アンサンブル全体を巻き込んで一時的に融合したのち、再び分かれてゆく過程を描きます。
※以上は、マティアス・ピンチャー、マリー・ルイーゼ・マインツ、ケルスティン・シュスラー=バッハ、シュテファン・フリッケ、アクセル・バウニによるライナーノーツを出品者が読み、出品商品の紹介を目的として、そのポイントを独自に要約したものです。