ジェフリー・ビーゲル(ピアノ)   録音:1992年9月16-18日

NAXOS【香港輸入盤】

セザール・キュイ (1835-1918) は、ロシアの作曲家・音楽評論家で、「ロシア五人組」の一人です。五人組の中では比較的演奏機会が少なく、知名度も高いとはいえませんが、長寿に恵まれ、オペラ10曲をはじめ、ピアノ曲や歌曲など膨大な作品を残しました。なかでも、ピアノのための「25の前奏曲」は、知る人ぞ知る魅力的な作品です。キュイは軍人としても活躍し、陸軍士官学校の教官を務め、将軍にまで昇進した異色の経歴の持ち主でした。一方、音楽評論家としては辛辣な批評で知られ、同時代の作曲家たちから反感を買うこともあったといわれます。しかし、彼自身の音楽は、そうした人物像とは対照的に、可憐で繊細な抒情に満ちています。ピアノ曲や室内楽、歌曲には、趣味のよい旋律と洗練された和声が息づき、五人組の中でもひときわ優美な魅力を放っています。
このアルバムに収録された「25の前奏曲」は、ハ長調に始まり、さまざまな調性を巡って再びハ長調へと戻る構成を持つ作品集です。各曲はそれぞれ異なる個性を備え、美しい旋律と豊かな和声、繊細な詩情が印象的。華麗な技巧を誇示するのではなく、ピアノの響きを巧みに生かしながら、親密で味わい深い音楽を紡ぎ出しています。ロシア五人組の作品と聞いて想像する民族色の濃い音楽とは一味違い、フランス音楽を思わせる洗練された響きも魅力です。例えば、第6番ではほのかな甘さを漂わせながら、哀感を帯びた旋律がしみじみと心に響きます。「前奏曲集」といえばショパンの名作がまず思い浮かびますが、キュイの作品にも、それに劣らぬ抒情性と気品があります。全曲を通して聴けば、まるで美しい旋律の花束を手にしたような心地よさを味わえることでしょう。
演奏は、アメリカのピアニスト、ジェフリー・ビーゲル。幅広いレパートリーを持ち、協奏曲から室内楽、知られざる作品の紹介まで意欲的に取り組んできた演奏家です。現代作品の初演や録音にも積極的で、作品の魅力を丁寧に掘り起こす姿勢にも定評があります。本盤でも、キュイの繊細な旋律美と洗練された和声を、自然な歌心と明快なタッチで描き出しています。華やかさを前面に押し出すのではなく、静かな抒情と上品な美しさをじっくり味わえる一枚。心を寛がせる音楽としても楽しめる、隠れたロマン派ピアノ作品の名品です。キュイの魅力を再発見したい方に、ぜひオススメします。未開封新品です。