【ライナーノーツ要約】
著者:ジョアンナ・ベイリー(Joanna Bailie)
本作『Unseen』で中心となるのは、「音の発生源が見えないとき、私たちは何を聴くのか」という問題です。
著者は、早朝に窓の外から聞こえた複雑でリズミカルな音を、最初は近所のラジオから流れる奇妙なロック音楽だと思い込みます。しかし実際には、それは鳥たちによる夜明けのさえずりでした。この体験から、音源を視覚的に確認できない「アクースマティックな聴取」では、聴き手の想像力によって音が自由に解釈されることが語られます。
『Unseen』では、Polwechselのメンバーに作曲家・オルガン奏者のクラウス・ラングが加わり、ザンクト・ランブレヒト修道院のパイプオルガンと教会の残響空間そのものが、重要な「共演者」となっています。
・クラウス・ラング《Easter Wings》
オルガン、弦楽器、金属打楽器の響きが教会空間の中で混ざり合い、個々の楽器を判別しにくい音響世界を形成します。自然倍音、クラスター、ノイズが重なり、時計や鐘、蒸気機関車、金属的な昆虫などを思わせる「機械の森」のような風景が現れます。
・マイケル・モーザー《No sai cora-m fui endormitz》
オルガンと弦楽器が高速の音型を共有し、ひとつの混成楽器のような響きを生み出します。緊張感のある反復は、次第に長く持続する和音へと変化し、後半では各楽器が重なり合う音の層へと分かれていきます。
・ヴェルナー・ダフェルデッカー《Redeem》
低音のオルガンとダブルベースによる飽和した響きから始まり、ざらついた弦の音や、発生源を特定できないノイズが交錯します。中盤以降は明るい和音へと風景が一変し、鐘、汽笛、ラジオの雑音など、多様な音のイメージを呼び起こしながら静かに変容していきます。
本作では、電子楽器を用いず、歴史あるオルガン、伝統的な楽器、教会の残響を利用することで、まるで電子音響のような未知の音が生み出されています。楽器の音は空間によって混合され、覆い隠され、別のものへと変貌します。
著者は、演奏の様子を見るコンサートとは異なり、録音を通して「盲目的に聴く」ことには、音とその原因を切り離し、聴き手に無数の解釈を可能にする独自の魅力があると結論づけています。『Unseen』は、録音メディアが持つ音の曖昧さと、想像しながら聴くことの自由を追究した作品です。
※本稿は、付属ライナーノーツを出品者が読み、作品理解の参考となるポイントを独自に要約・再構成したものです。