タブラ界の巨匠ウスタッド・ザキール・フセイン(Ustad Zakir Hussain)が主宰する「Masters of Percussion(マスターズ・オブ・パーカッション)」は、インド古典音楽の打楽器リズム世界を中心に、各地の打楽器奏者や伝統楽器の奏者を招いて繰り広げられる一大コラボレーション・プロジェクトおよびその音源作品群です。
ザキール・フセインの父であり、タブラの神様と称されたアラー・ラカ(Allarakha)の伝統を受け継ぎつつ、北インド(ヒンドゥスターニー)や南インド(カルナータカ)の超凄腕パーカッショニストが集結。変拍子が緻密に交差する高速超絶技の掛け合い(サワール・ジャワーブ)と、肉体的なグルーヴが融合した圧巻のアンサンブルが特徴です。


『Zakir Hussain and the Masters of Percussion』(1998年)
解説: シリーズの原点ともいえる作品。北インドのタブラをはじめ、南インドの代表的な打楽器であるムリダンガムやカンジーラ、さらにはサーランギーやサーロードなどの弦楽器を交え、アンサンブルとしての完成度を極めた名盤です。
聴きどころ: 単なる技の披露にとどまらず、旋律楽器が織りなすラガの美しさと、複雑に計算し尽くされたポリリズムが完璧な調和を見せます。

作品の魅力・音楽的特徴
北と南の伝統の交差: 北インド音楽のタブラと、南インド音楽のムリダンガムやカンジーラ、ガタム(土鍋形打楽器)との対話。異なるリズム理論が激しく衝突し、融和する緊張感。

口奏法「ボル(Bol)」の口の技: 打楽器の音色を口で表現する「ボル」や「コンナコル」のテクニックが随所に取り入れられており、声自体がパーカッションとして機能する爽快さ。

圧倒的なダイナミクス: 息をのむような静寂の微音から、地響きのような高速連打まで、打楽器だけで表現されるドラマチックな構成美。


『Masters of Percussion』を深掘りするキーポイント
父アラー・ラカ(Ustad Allarakha)へのオマージュ
このプロジェクトは、父親であり師でもあったアラー・ラカが築いた「打楽器奏者を伴奏者の立場から主役に引き上げる」という理念を継承・拡大発展させたものです。ライブや録音には、父への敬意が常に込められています。

「コンナコル(Konnakol)」と口奏法の凄み
南インド古典音楽の手法である「コンナコル(口でリズム音節を唱える技法)」と、北インドの「ボル」が高速で交差し合うパートは、アルバム内でも屈指の聴きどころです。声だけでパーカッション以上のスピード感と迫力を生み出します。

異楽器とのダイナミズム
ガタム(土鍋)、カンジーラ(小型フレームドラム)、ムリダンガム(両面太鼓)、さらにはサーランギーやサーロードといった弦楽器までが組み合わさり、打楽器の音色のバリエーション(高音・低音・アタック感・残響)が緻密に計算されています。

鑑賞時の注目アプローチ
テアーハ(Tihai)の構造美: 曲の展開やソロの締めくくりに登場する「同じリズムパターンを3回繰り返してサーム(1拍目)に着地する」数学的で美しい決まり文句の爽快感。

左右のスピーカー配置: CD音源では、各打楽器の定位(パンチング)が非常にクリアに分離されており、どの楽器がどうセッションに応答しているかが立体的に捉えられます。


ザキール・フセイン本人が『Masters of Percussion』というプロジェクトや自身の音楽観、そして父アラー・ラカとの関係性についてインタビューやライナーノーツ等で語ってきたエッセンスです。

プロジェクトの発足と父アラー・ラカへの想い
「打楽器奏者は単なる伴奏者ではない」
「かつてタブラ奏者は、メロディ奏者の後ろに座り、ただテンポをキープするだけの存在(伴奏者)と見なされていました。それを変えたのが私の父(アラー・ラカ)であり、パンディット・シャンテイ・プラサードのような先人たちです。彼らはタブラをステージの主役に引き上げました。『Masters of Percussion』は、その精神をさらに押し進め、世界中の打楽器奏者が対等に、主役として会話できる場を作るために始めたのです。」

父とのライバルであり師弟の絆
「父と一緒にステージに立った時、父は私を息子としてではなく、一人のミュージシャンとして容赦なく追い込んできました。『お前のすべてを出してみろ』という挑戦です。あのスリリングな緊張感こそが、今の私の演奏の核になっています。」

即興とセッションに関する美学
「会話(Dialogue)であって、競い合い(Duel)ではない」
「ステージ上で異なる打楽器同士が手数を競い合う『バトル』に見えるかもしれませんが、私にとっては純粋な『対話』です。南インドのムリダンガムやカンジーラ奏者が提示したリズムの問いかけに対して、私はタブラの言語で答える。お互いの伝統を尊重しつつ、その場でしか生まれない新しい言葉を探している感覚です。」

「数学ではなく、感情とグルーヴ」
「インド古典リズムには『ティハーイ(3回繰り返す締めくくり)』のような緻密な数学的構造がありますが、頭で計算して叩いているわけではありません。身体に染み込んだ数式が、その瞬間の感情やエネルギーと結びついた時に、自然と音として溢れ出るのです。」
ワールドミュージックやジャンルを超えた試みについて

「伝統の枠を守るために、境界を破る」
「インド古典音楽の伝統は固固たるものですが、それは閉じた世界にとどまることを意味しません。ジョン・マクラフリンとのShaktiや、様々なパーカッショニストとの共演を通じて学んだのは、根底にある『リズムという共通言語』の力です。ルーツに誇りを持ちつつ外の世界と響き合うことで、古典音楽自体もまた新しく息づくのです。」

重低音(バヤン)と音響(Sound)へのこだわり
「左手のバヤンは、心臓の鼓動でありベースラインだ」
「右手のダヤンが高音で緻密なメロディや言葉(ボル)を刻むのに対し、左手の金属製ドラム(バヤン)は曲の感情やグルーヴを支配するベースラインです。手のひらの圧力を変えて音高をスライドさせる(ミーンド)ことで、タブラは単なる打楽器を超えて、人間の声のように歌い、うねり出します。この重低音のコントロールこそが、聴き手の身体を直接揺さぶるのです。」

「マイクのセッティング一つで、リズムの表情が変わる」
「タブラの繊細な空気感と地響きのような低音を同時に伝えるため、ステージやスタジオでの音響(PA)には徹底的にこだわります。打面のアタック音だけでなく、残響や皮の振動そのものが音楽の一部だからです。」

ステージ上での思考と呼吸
「観客とのエネルギーの交換(マハフィル)」
「インド音楽の演奏は、一方的に聴かせるものではなく、観客との相互作用です。客席からのリアクションや熱量が、その瞬間のアイディアを引き出します。『Masters of Percussion』のステージでも、あらかじめガチガチに決めた譜面は存在せず、その場の空気感に従って展開が変わっていきます。」

「失敗(ミス)は、新しいフレーズへの扉」
「即興演奏において、予期せぬ手の滑りやリズムのズレはエラーではありません。それは新しいアイデアへのきっかけです。大事なのは、予期せぬ音が鳴った瞬間にそれをどう回収し、次の美しいフレーズへと着地させるかという柔軟さです。」

若手演奏家たちの育成と継承
「若い世代から、私自身が刺激を受けている」
「このプロジェクトには常に若手の才能を呼び込んでいます。彼らは伝統的なテクニックを完璧にマスターしているだけでなく、現代的なスピード感や新しいリズムアプローチを持っています。私は彼らに教える立場であると同時に、ステージ上で彼らの新鮮なエネルギーから多くの刺激をもらっているのです。」


『Masters of Percussion』のツアーやCD作品には、世代や地域(南北インド、さらに世界)を超えた超一流の奏者たちが代々参加してきました。代表的な参加ミュージシャンと担当楽器のラインナップです。

主要な参加ミュージシャンと担当楽器
タブラ(北インド打楽器)
Ustad Zakir Hussain(リーダー・タブラ)
Fazal Qureshi(ファザル・クレシ / ザキールの実弟)
Taufiq Qureshi(タウフィク・クレシ / 実弟、ジェンベやボイス・パーカッションも担当)
Anindo Chatterjee(アニンド・チャテルジー)
Anuradha Pal(アヌラーダ・パル / 女性タブラ奏者の先駆者)

南インドの打楽器陣
T. H. "Vikku" Vinayakram(ヴィックゥ・ヴィナヤクラム / ガタム[土鍋]の巨匠、Shaktiメンバー)
V. Selvaganesh(V. セルヴァガネーシュ / ヴィックゥの息子、カンジーラ[小型フレームドラム]の名手)
Umayalpuram K. Sivaraman(ウマイヤルプラム・K・シヴァラマン / ムリダンガム[両面太鼓]の重鎮)
Patri Satish Kumar(パトリ・サティシュ・クマール / ムリダンガム)
旋律楽器(メロディ・サポート)
Sultan Khan(スルタン・カーン / サーランギー[擦弦楽器]の巨匠)
Sabir Khan(サビール・カーン / スルタン・カーンの息子、サーランギー)
Aashish Khan(アーシシ・カーン / サーロード)
Rakesh Chaurasia(ラケーシュ・チャウラシア / バンズリ[竹笛]、ハリプラサード・チャウラシアの甥)

国際的なゲスト / 伝統打楽器(公演・作品によって参加)
Abbos Kosimov(アボス・コシモフ / ウズベキスタンのドイラ[枠型太鼓]奏者)
Navin Sharma(ナヴィン・シャルマ / デルー[小型両面太鼓]など)
Steve Smith(スティーヴ・スミス / ジャズ/ロック・ドラマー)

アンサンブルの特徴
「北と南」の豪華共演
北インドの重厚なタブラと、南インドの素早い複雑さを誇るムリダンガム、カンジーラ、ガタムが真っ向から対峙する点が最大のハイライトです。

伝統の継承(ファミリーと次世代)
アラー・ラカの血を引くザキール、ファザル、タウフィクの兄弟共演や、ヴィックゥとセルヴァガネーシュの親子出演など、血統と技の継承がステージ上でダイレクトに表現されます。



世界的なタブラ奏者、Ustad Zakir Hussain(ザキール・フセイン)のCDです。インド音楽やタブラの演奏を堪能できる一枚です。ケースには保管に伴う微細なスレがあるかもしれませんが、盤面は良好な状態です。コレクション整理のため出品いたします。

【アーティスト】Ustad Zakir Hussain
【楽器】Tabla
【ジャンル】ワールドミュージック / インド音楽

よろしくお願いいたします。