アストル・ピアソラ(1921-1992):
1. 天使の死
2. タンゴの歴史(第1曲:売春宿1900/第2曲:カフェ1930/第3曲:ナイトクラブ1960/第4曲:現代のコンサート)
3. メロディア イ短調
4. 2つの小品~第1番:タングァーノ
5. 言葉のないミロンガ
6. ブエノスアイレスのマリア~第2番:フーガと神秘
7. アヴェ・マリア(タンテ・アンニ・プリマ)
8. ブエノスアイレスのマリア~第3番:私はマリア
9. オブリビオン(忘却)
10. サンバ・ニーニャのアリア
11. ル・グラン・タンゴ
12. リベルタンゴ
編曲:T・コーティク(1,3,6,8-10,12)、D・ヴァレラス(2)、S・グバイドゥーリナ(11)
トーマス・コーティク(ヴァイオリン)、リン・タオ(ピアノ)
録音:2012年5月1,13-14日、フロリダ、ガスマン・ホール
NAXOS【香港輸入盤】
現在、アストル・ピアソラの名を知らない人はほとんどいないでしょう。彼の名前はアルゼンチン・タンゴとほぼ同義語となり、誰もがあの哀愁漂うメロディを思い浮かべるのではないでしょうか。ピアソラの音楽が世界的に広く親しまれるようになったのは1980年代以降のこと。以来、この情熱的な音楽は日常生活にも入り込み、さまざまな場所で耳にするほどポピュラーなものになりました。クラシックやジャズの影響を受けながらも、独自の音楽世界を切り開いたピアソラ。伝統的なタンゴに複雑な和声や大胆なリズム、洗練された構成を取り入れた「ヌエボ・タンゴ(新しいタンゴ)」は、既存のジャンルの枠を超えた魅力を放っています。彼の音楽はさまざまな楽器編成に姿を変えても、その哀愁に満ちた旋律と胸の奥に何かを訴えかける情熱を失いません。
このアルバムは、ヴァイオリンとピアノという編成でピアソラの名曲を味わうアルバムです。大半の曲をアルゼンチン出身のヴァイオリニスト、トーマス・コーティクが自ら編曲しており、原曲の魅力を生かしながらヴァイオリンならではの歌心と技巧を前面に押し出しています。洗練されたクラシック音楽の響きを備えつつ、タンゴ本来の情熱や官能性、鋭いリズムを失わない演奏は、実にスリリングです。冒頭の「天使の死」では、切れ味のあるリズムと鮮やかな旋律が交錯し、アルバムの幕開けにふさわしい躍動感を生み出します。4楽章からなる「タンゴの歴史」は、1900年の売春宿から1930年のカフェ、1960年のナイトクラブ、そして現代のコンサートへと、タンゴの変遷を描いた作品。時代ごとに変化するリズムや表情を聴き比べられる、アルバムの中心的な聴きどころです。一方、「メロディア」や「言葉のないミロンガ」、「オブリビオン(忘却)」では、ピアソラの音楽に流れる深い哀愁と抒情性が際立ちます。甘美でありながらどこか痛切な旋律を、コーティクのヴァイオリンが繊細なニュアンスを交えて歌い上げます。「フーガと神秘」では緊密な声部の絡み合いと躍動的な展開が楽しめ、「ル・グラン・タンゴ」では技巧的な華やかさと力強いリズムが聴き手を圧倒します。そして「リベルタンゴ」では、反復するリズムに乗って音楽が勢いよく展開し、タンゴの持つ解放的なエネルギーが存分に発揮されます。
トーマス・コーティクは、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれのヴァイオリニスト。1997年にはアルゼンチンの全国放送音楽コンクールで第1位を獲得し、その後カナダ、アメリカ、ドイツで研鑽を積みました。室内楽奏者としても幅広く活動し、博士号を取得。ピアソラの音楽についても研究を重ね、同郷の作曲家ならではの感覚と、クラシック音楽の確かな技術を融合させた演奏で高い評価を得ています。編曲者としても優れた手腕を発揮し、ヴァイオリンの表現力を生かしながら、ピアソラの音楽に潜む官能性や激しさを鮮やかに引き出しています。ピアノのリン・タオは、コーティクとシューベルトのヴァイオリンとピアノのための作品でも共演してきた、室内楽の経験豊かなピアニストです。本盤でも、ヴァイオリンの旋律を支えるだけでなく、鋭いリズムや豊かな和声によって音楽に推進力を与え、二人の緊密な対話を生み出しています。ピアソラ・ファンはもちろん、クラシック音楽の演奏家がタンゴに挑むことで生まれる新鮮な魅力を楽しみたい方にもお薦めしたい一枚です。未開封新品です。