ライナーノーツ要約
解説執筆:ミヒャエル・シュトルック=シュローエン
本盤には、レベッカ・サンダースが1996年から2006年にかけて作曲した室内楽作品5曲を、現代音楽アンサンブルのムジークファブリークが収録している。中心となるのは、楽器そのものの物質性、演奏行為の身体性、そして音と沈黙の境界を探るサンダース独自の作曲姿勢である。
サンダースにとって沈黙は、単なる無音ではない。ノイズ、周波数、残響、まだ形を与えられていない音が密集する場であり、作曲とは、その表面から音色や運動を少しずつ引き出し、形づくる行為だという。音は沈黙の中からかすかに現れ、膨らみ、崩れ、再び闇へ戻る。作品中に置かれる長い休止や唐突な切断は、音楽を分断するのではなく、一つ一つの響きの存在感を強める役割を担っている。
サンダースは、演奏家と個別に実験を重ねながら、通常とは異なる奏法や音色を探究する。楽器に外部から形式を押しつけるのではなく、発見された音そのものの性質から作品全体を成長させる。そのため、各楽器は単なる声部ではなく、舞台上で独自の身体と存在感をもつ登場人物のように扱われる。
収録作品の特色は次のとおり。
- 《ブラウ》
二つのベルを備えたトランペットを用い、ミュート、息音、グリッサンド、フラッター・タンギングなど多様な奏法を展開する。開放されたピアノが共鳴体となり、トランペットの音を遠い倍音として映し返す。 - 《ブルー・アンド・グレイ》
2本の5弦コントラバスによる二重奏。ざらついた弓音、唸る弦、微分音の摩擦とともに、高音域の甘美さや歌うような旋律性も追求される。作品名はマーク・ロスコの絵画に由来し、青と灰色の視覚的・精神的な連想が音へ移されている。 - 《デュオ》
ヴァイオリンとピアノの静かな対話から始まり、瞑想的な和音、激しいアクセント、極端な高音、沈黙が交替する。途中からオルゴールを思わせる非現実的な音響世界が現れるが、ヴァイオリンがその静けさへ抵抗し、対立が次第に激しさを増していく。 - 《ヴァーミリオン》
クラリネット、エレクトリック・ギター、チェロの音色が微分音によってほとんど一体化する。音は浮上し、分裂し、歪み、爆発し、長い沈黙へ消える。沈黙から音楽が引き出される過程そのものが、作品の中心に置かれている。 - 《スティリングス・スティル》
サミュエル・ベケットの最晩年の散文作品に着想を得た五重奏。各奏者は総譜ではなく個別のパートとストップウォッチを用い、互いの音を聴きながら時間の中へ加わる。脆く不安定な音、微分音の干渉、弓で奏されるクロタルの共鳴が、線ではなく複数の「音の表面」を形成する。
これらの作品では、従来の意味での旋律的展開や劇的構成よりも、音色の変化、空間の距離、響きの発生と消滅が重要となる。サンダースの音楽は、聴く位置や時間の経過によって姿を変える「動く音の彫刻」として捉えられている。
※本説明は、ミヒャエル・シュトルック=シュローエン執筆のライナーノーツを出品者が読み、その内容と作品のポイントを独自に要約したものです。