長年に亘りこつこつと収集し、愛蔵してきた紀州へら竿の一本ですが、今般、諸般の事情により断腸の想いで出品いたします。

※四ヶ月に亙って五十本あまり出品してきた竹竿の中、最後に残ってしまった一本。これも何かの縁、味わい深い良い竿なので手元に残しておこうかとも思うものの、未練を振り払い1円スタートで手放します。

【概説】
・鉄心斎は、その銘からも窺われる通りしっかりした硬式の竿を得意としています。
・そもそも私は、細身で軟らかく、全体の撓む調子が好きなのですが、ここにご紹介する鉄心斎は幾分オチ(=テーパー)の大きい見てくれを具えている一本です。
・そんな好みとは些か異なる竿を購入したのは、塗りに黒ではなく小豆色の漆を用いている珍しさに、何となく惹かれてのことでした。
・初めての竹の長竿だったため、果して上手く扱えるかという不安を少なからず感じていたものの、いざ使ってみると持ち重りもせず、比較的思い通りに振ることができ、先ず視野を大きく広げられました。
・さらに、振り・掛け両面に亙るその調子により、一層深く紀州へら竿に魅了されることとなったのです。
・仕掛けの振り込みにおいては、上に書いたようなプロポーションということもあり、孤舟のような颯爽とした操作感ではないものの、エサが着水する直前のちょっとした操作――というより、ただ「あすこへ」と意識しただけでふッとそこへ運んでくれ、片や魚が掛かると、暴れることなくひらひらと浮き寄って来る感触は、何とも言えない不思議なもの。
・後日、この独特の釣り味は、別の竿師の作品についてよく言われる特質であることを知り、私自身も実体験により心から首肯するところとなった妙味でした。
・そう、紀州へら竿の世界の最高峰たる櫓聲が髣髴されるのです。
・敢えて違いを言えば、櫓聲が手にする者に瑞々しさと艶やかさを感じさせるのを対し、この鉄心斎はあくまで素朴かつ質実に徹している印象で、邪念や欲望を捨て去り、宇宙に遍在する根本理法と一体になることを意味する「心斎」に、「鉄」を冠した銘は、正にその体を表しているように思います。

【状態】
・穂持にわずかな反りが見られるものの、竹竿として気にするようなものではなく、火入れの必要もありません。
・竹竿において最も注視すべき口割れのないのはもちろん、穂先の反りもなく、込み・胴漆の状態も良好です。
・玉口の先端に一部、小さく漆の剥がれているようなところがありますが、これも竹の地肌が出ているわけではなく、重ね塗りの上層だけのことです。
・綿糸握りの性質上、脱色・変色による若干の使用感があります。
・これまでの使用回数自体がさほど多くないことに加え、当方几帳面な性格ゆえ竿は至極丁寧に扱い、釣りを終えた際には家から持参した竿拭き用のきれいな絞りタオルで汚れを落として収納し、帰宅後すぐに展開して一晩室内干しした上、居室にて保管していたので、目立つキズ・汚れなどなく、素材の劣化も来たしていないと思います。
・何分製作年代の古い竿のため、残念ながら純正の共袋はなく、竿袋は市販の汎用品です。

※近年、紀州へら竿の使い方を弁えない人の手に渡って本来の美質の損なわれてしまった竿も散見されるようですが、本品はそのようなものではありません。

【付属品】口栓(純正品)、竿袋竿袋(市販の汎用品)

【注意事項】
良品と自負しておりますが、見落としている細かな瑕疵があるかもしれません。
また、工業製品ではなく、自然素材の竿という点はお含みおきください。
これらの点をご理解の上ご入札いただき、落札時にはノークレーム・ノーリターンでお願いします。
新規の方、および過去の評価の悪い方の入札はこちらの判断で削除させていただく場合があります。

【梱包・配送について】竿本体を竿袋に収納した状態でエアキャップ(プチプチ)を巻き、ボイド管または塩ビパイプに入れて発送します。
配送は「ゆうパックおてがる版」にて行います。